【音楽と極右】NSブラックメタルの起源

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0

国民社会主義(NS)ブラックメタルというアングラなメタルの一派がある。おどろおどろしい曲調に、偏狭な人種差別的思想、ナチや戦争の賛美、、、ヒトラーやゲッベルスの演説をサンプリングし曲に練りこむ輩も多く、音楽的にも独特で奇妙な世界である。主に北欧や東欧のネオナチたちの間で人気の過激な音楽だ。

これらが如何にして生まれたか、その歴史を追って行きたい。

スポンサーリンク

音楽と極右思想

パンクは政治的な主張を伴う音楽であるが、時に異常に過激な主張を唱えることがある。極右思想もその一つである。

古くはOi!パンクなどと呼ばれる、70年代にイギリスで発生した、労働者階級の人々が支持したパンクロックの一派があるが、これは必ずしも極右思想を伴うものではなかった。しかしOi!パンクから派生した「ロックアゲインストコミュニズム(RAC)」というロックジャンルにおいては、はっきり白人優越思想や、人種差別思想、反共主義や極右思想が歌詞に込められ、欧州のネオナチやスキンヘッズが好んで聞く音楽となった。

RAC

RACのシンボル

RACは1978年に、イギリスの極右活動団体「国民戦線(NF)」に関係した右翼活動家によって組織されたムーブメントである。当時のイギリスは極右運動が活発で、ロックやポップ、パンクやレゲエのミュージシャンが、しばしば人種差別反対をテーマにステージングを行っていた。これに対抗する形で極右思想を持ったパンクバンドたちが活発にライブ活動を行うようになり、徐々にファンを獲得して行く。RACは平等主義に対するカウンタームーブメントだったと言える。

RAC運動の活況は、ネオナチの音楽ネットワーク兼政治団体「血と名誉(Blood&honour)」への道を切り開いたと言える。

bloodandhonour

当初より、RACはサウンドや思想面でしばしばハードコアパンクに類似するジャンルと見られており、ハードコアパンクミュージックがより身近にポピュラーなものとなった90年代から2000年代にかけて、RACバンドたちもその影響を強く受けてサウンドを変化させている。

rac2

RACバンド、「BrutalAttack」

音楽とアンチキリスト

さて、時を同じくして1990年代、ノルウェーで、ある重要な音楽ムーブメントが活発化する。ブラックメタルである。反キリスト思想を掲げるバンドたちの一群である。

当初は若者特有の反体制的スピリッツに端を発した音楽潮流であったが、複雑な思想的変遷を経ていまや極右思想を内包する音楽ジャンルへと変化してしまった。

というのも、悪魔主義や反キリストをテーマとして掲げていたバンドは、ずっと昔から存在していて、それ自体が珍しいということは決してなかった。60年代には「ブラックサバス」がジャズやブルースを基調におどろおどろしい音楽をはじめ、そのイメージから悪魔崇拝や黒魔術と結び付けられた。

70年代にはイングランドに「ヴェノム」というバンドが登場し、歌詞やアートワークに悪魔崇拝や反キリストを用いた。

80年代には「スレイヤー」が反キリストをアートワークや歌詞の前面に押し出して物議をかもした。しかし、スレイヤー自体に本気の反キリスト思想があったわけではなく、病気や戦争や死や精神異常、暴力をテーマにした歌詞や作風のハードな音楽を作るバンドであり、反キリストはそれら「悪そうなイメージ」のモチーフとして選ばれた題材に過ぎない。

slayer

ブラックサバスやヴェノム、スレイヤーといったバンドたちは、初期ブラックメタルの源流として言及されることが多いが、80年代には「バソリー」という、もっと直接ブラックメタルの開祖として語られるスウェーデンのバンドがいる。

venom

「バソリー」の悪魔崇拝を思わせるアートワーク

彼らの3rdアルバムが最初のブラックメタルとして有名である。それ以降も北欧神話をモチーフに取り込み、後続のバンドに強い影響を与えた。

ブラックメタルの登場

さて、こういったバックグラウンドがある中で、80年代後半のノルウェーで「メイヘム」というバンドが現れ、白塗り化粧「コープスペイント」を施した。こうしてブラックメタルというジャンルの音楽が地下でひっそりと活動を開始したのである。

それまで存在した悪魔崇拝バンドと、ブラックメタルバンドが異なっていたのは、メンバーに「本気の人」が多かったことだ。本気でキリスト教支配体制を打倒してやる、本当の悪魔になってやる、とまで思っていたかは定かではないが、彼らはしばしば教会に放火し、殺人を犯した。そうやってぞくぞく逮捕者が出る中で、もともと悪そうなイメージから人気を博していた音楽だけあって、ファンの間で人気は急上昇してしまった。ファッションで反キリストを叫んでいるよりも、本気で思想を叫んで本気でアブないほうが「音楽も本物だぜ」と勘違いされてしまったのである。

反キリストから多神教=自然崇拝(ペイガニズム)へ

ヴァーグ・ヴァイカーネスというブラックメタルメンバーは、教会放火や殺人事件を引き起こして、ノルウェーでは最高刑の懲役21年を言い渡された。しかし皮肉にもそれがこの男の唯一のアイデンティティーになってしまい、ヴァイカーネスは獄中でブラックメタルの掲げる反キリスト思想を徹底して哲学し、思考し、つきつめ、より万人に受け入れられる形(=政治)に変化させてしまった。また、獄中でその他の極右思想を持つ人間と出会ったと推測されており、強い影響を受けるに至った。

varg2

まず、反キリスト思想は、キリスト教支配体制が確立するずっと前の自国の宗教への憧憬を呼び起こした。それはすなわち多神教であり、バソリ―が掲げた自然崇拝(ペイガニズム)であった。八百万の神々こそ、キリスト教が悪魔と排斥した概念であった。簡単に「悪魔」という言葉を使うのは、キリスト教を崇拝していると公言するに等しい。この矛盾にいち早く気付いたブラックメタルの先駆者たちは、多神教崇拝を前面に押し出した一派を確立する。これは「ヴァイキングメタル」などと呼ばれることもあるが、サウンド的になんら特色もなく、単に「自然崇拝系」(ペイガン)と呼ばれることもある。複雑だ。

ネオナチとの邂逅

しかし、北欧神話や自然崇拝だけで留まっていればよかったのだが、多神教崇拝は国のアイデンティティーや文化の独自性などに容易に結びついてしまうようである。また、白人の優越性の論拠を北欧神話の中の英雄像に求めた国民社会主義政権(ナチス)も、ブラックメタルファンの間で影響力を増して行くことになった。

またその先駆者の代表たるヴァイカーネスは、思想云々を抜きにして「ナチスとかドイツ軍の方がいい武器持ってて見た目も良かったし、規律もあってかっこよかったから」と率直に語っている通り、装備や見た目のイメージが、若者を強く惹きつけたことは否めない。

こうしてブラックメタルは極右思想と結びつき、NSブラックメタルという過激な一派が生まれたのである。サブカルから危険思想にハマることは起こりうるという良い例だろう。

varg

ドイツ軍のコスプレをするヴァーグ

NSブラックメタルと、RACバンドの一群は思想の類似性からしばしば共同戦線を張り、サウンド的には融合を見せることもある。同じ源流から生まれた二つの音楽ジャンルが邂逅し、結局一つに戻る姿は実に奇妙である。

さて、前置きが長くなったが、次回は極右思想やそれに類似したアチチュードを持つバンドたちの中でも、比較的に音楽的に優れた?バンドを紹介して行きたい。

覚悟ができた人はどうぞこちらへ。。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする