【差別の歴史】優生学とは何か?【生命の選別】

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現在は「母体保護法」と名を変え、強姦被害や母体保護目的でやむを得ず、という場合にのみ、同意に基づいて中絶手術が認められている。

優生保護法の現場の実態は謎に包まれている。政府が「当時は合法であった」ことを理由に実態調査をしないからである。どのような人権侵害が行われてきたのか、反省と総括を欠いたまま、日本はポスト優生主義の時代に乗り出してしまったと言える。

「福祉国家」と呼ばれる国々でも…

スウェーデンでは断種法の名の下に、60000件以上の断種手術が行われた。

デンマークでは、ナチスドイツよりも先に、障害者の婚姻に法務大臣の許可が必要との法律を制定した。

フランスではナチ傀儡ヴィシー政権下で結婚前の遺伝病検査を義務化し、遺伝病が見つかった場合に夫婦に子供をつくることをためらわせようとした。これはナチ崩壊後のフランス新政権でも継続され、今でも形を少し変えただけで継続されている。

現代の優生学

現在は先天性障害を持つ子供が生まれないようにする手段として、不妊手術よりも出生前診断による中絶の選択が主となっている。日本では明確な規制がなく、「経済的理由」を拡大解釈することで、いかなる子供でも中絶できる。

また、医学の進歩により、着床前診断技術や、胎児細胞の遺伝子診断など、出生前診断の技術は急速に拡大し「命の選択」が野放図に行われる時代に突入した。

95年には中国で「母子保健法」が制定された、そこでは遺伝病、精神病、感染症を持つ夫婦は断種手術を受けるか、長期の避妊をしなければ結婚を許可されない、とあり、欧米や日本が優生学から強制性を排除しようとする中、時代に逆行するような法律であり、諸外国からバッシングを受けた。中国政府は政治的な中国叩きと受け取り、なぜ叩かれるのかわからなかった、というエピソードがある。

中国の例に見るように、優生学はいつ逆行するかわからない。いつまたナチスに逆戻りするかなど、誰にもわからない。

優生学の功罪

性犯罪の常習者に対する断種に貴方は反対だろうか、賛成だろうか。

強姦被害を受けて妊娠した女性の中絶をあなたは反対するだろうか、賛成だろうか。

出生前診断で、腹の中の子供がダウン症であるとわかった場合、あなたはどうするだろうか。

未婚で妊娠し、自分に育てる能力がないことが明らかに思える場合、あなたはその子を産むだろうか。

優生学はしばしばナチと結びつけられて論じられ、極右の学問と誤解されるのだがそれは違う。

社会ダーウィニストたちの唱える優生学は、むしろ多様な遺伝子を取り込むことに賛成し、混血を奨励していた。しかし、アメリカやナチスドイツによって人種の優劣と優生学が歪に結びつけられ、異人種排除の論理に利用され始めた。

そして、生命を選別し、中絶を自由に行うことができるために、我が国は犯罪が少なく、同時に子供が少ない。チャウシェスク時代のルーマニアに見るように、中絶を禁止すれば子供は激増するが犯罪も増加するのである。

また、女性の解放と共に高齢出産が当たり前な世の中になってきたが、高齢出産は障害のある児童を産むリスクを劇的に高める。出生前診断をやめれば、高い教育を受けて第一線で働いてきた男女が、その子の世話に明け暮れるだけで人生を終えることになる。(無論、このような損得の感情はナチズムの時代に見られたそれとまったく同じものである)

断罪されたナチと異なり、我々は優生学とはまだまだ付き合っていかねばならない。生命倫理に確たる答えもないまま、我々は自分で最良の選択をしなければならないのである。