国民社会主義(NS)ブラックメタルというアングラなメタルの一派がある。おどろおどろしい曲調に、偏狭な人種差別的思想、ナチや戦争の賛美、、、ヒトラーやゲッベルスの演説をサンプリングし曲に練りこむ輩も多く、音楽的にも独特で奇妙な世界である。主に北欧や東欧のネオナチたちの間で人気の過激な音楽だ。
これらが如何にして生まれたか、その歴史を追って行きたい。
音楽と極右思想
パンクは政治的な主張を伴う音楽であるが、時に異常に過激な主張を唱えることがある。極右思想もその一つである。
古くはOi!パンクなどと呼ばれる、70年代にイギリスで発生した、労働者階級の人々が支持したパンクロックの一派があるが、これは必ずしも極右思想を伴うものではなかった。しかしOi!パンクから派生した「ロックアゲインストコミュニズム(RAC)」というロックジャンルにおいては、はっきり白人優越思想や、人種差別思想、反共主義や極右思想が歌詞に込められ、欧州のネオナチやスキンヘッズが好んで聞く音楽となった。
RACは1978年に、イギリスの極右活動団体「国民戦線(NF)」に関係した右翼活動家によって組織されたムーブメントである。当時のイギリスは極右運動が活発で、ロックやポップ、パンクやレゲエのミュージシャンが、しばしば人種差別反対をテーマにステージングを行っていた。これに対抗する形で極右思想を持ったパンクバンドたちが活発にライブ活動を行うようになり、徐々にファンを獲得して行く。RACは平等主義に対するカウンタームーブメントだったと言える。
RAC運動の活況は、ネオナチの音楽ネットワーク兼政治団体「血と名誉(Blood&honour)」への道を切り開いたと言える。