ナチスと並ぶ危険思想、共産主義。今でこそ下火だがちょっと前まで世界を二分する一大勢力であった。ソ連崩壊後も中国共産党や朝鮮労働党など、共産主義を標榜する国家は存在し、特に北朝鮮は21世紀においてもテロリズムに頼る性格を隠そうともしない。
今回は主にソ連崩壊後に自由な言論の中で製作された、共産主義政権を告発する社会派映画を集めた。
カティンの森/Katyn(2007)
ポーランド映画界の巨匠アンジェイ・ワイダ監督作品。
第二次大戦中、ソ連はドイツとポーランドを分割占領し、ドイツ軍に敗れて落ち延びたポーランド将校を苦も無く大量に捕虜とした。ソ連秘密警察NKVDは、市民や軍を対象とした大規模な階級テロを行い、スモンレンスク近郊のカティンの森などいくつかの処刑場でポーランド将校を大量銃殺し、ドイツの犯行に見せかけた。被害者は20000~25000人に及ぶと推定。ポーランド将校の家族30万人も、主にカザフスタンの収容所へ追放され、そのまま放置された。
この映画は独ソに分割され、両国からテロを受けたポーランドの抗議の意志がこもった映画で、巨匠らしい重厚で大人っぽい映像に、しっとりとしたドラマが描かれている。
後半部分はNKVDによるシステマチックで機械的で感情のこもらない大量銃殺が描かれており、これは大変にショッキングな観賞要注意シーンだ。最後の将校が銃殺され、ブルドーザーで無造作に土をかぶせられる将校たちの無念の姿に言葉を失う。
その後画面は暗転し、レクイエムが奏でられ、無音のスタッフロール。観ている貴方もきっと無言になるだろう。
カティンの森
9000マイルの約束/So weit die Füße tragen (2001)
敗戦後のドイツ国防軍の将兵が、ソ連の捕虜収容所に大量に移送され、劣悪な環境で病や飢餓に苦しみ、多くの人々が死んでいったことはいわば隠された歴史である。
スターリングラード戦で生き残った9万余の捕虜で、生きて故国の土を踏んだのはわずか6千人であった。スターリングラードの悲劇は、戦後もロシア全土で繰り返されたのだ。ドイツがソ連で行ったことを考えれば、それは当然の報いだったかもしれない。しかしヒトラーの罪を背負わされた人々の中には、きっと祖国に家族を残し、無実の者もいたに違いない。
この映画は、ソ連の劣悪な捕虜収容所から脱走した元ドイツ兵が、9000マイルの道のりを歩いてドイツへ帰還した実話をもとに製作されている。ソ連捕虜収容所で行われる虐待や拷問の描写は必見。あとは過酷なサバイバルを描いた映画で、美しいが厳しいロシアの大地が活写されている。
捕虜大隊 シュトラフバット/Штрафбат (2004)
第二次大戦中もNKVDはしっかりお仕事をし、軍を監視して臆病者や逃亡兵を政治犯収容所へ送っていた。そんな中、ソ連軍内部には懲罰大隊と呼ばれる犯罪者のみで構成された部隊が何百もあって、総攻撃の露払いや、地雷原の撤去作業、危険な陽動作戦や勝てる見込みのない防衛線に真っ先に駆り出され、全部死のうが上は知らん顔であった。
死んで初めて栄誉回復・・・されるとは限らず、家族を人質にとられた懲罰兵は文字通り死ぬまで戦っても報われたとは言い難かった。